「鑑みる」の意味。「~を鑑みる」は間違い!

「鑑みる」という言葉を一昔前よりも良く耳にするようになりました。

筆者はこの言葉を見たり聞いたりするたびに、毎度のように違和感を感じています。

というのも、「~を鑑みて」という使い方が横行しており、この「を」という格助詞の使い方が間違えているからです。

今回は「鑑みる」という言葉の意味や、間違えた使い方、正しい使い方を明記したいと思います。

 

 

「鑑」という漢字の意味

「鑑」という感じは、辞書によると以下のような意味があります。

かんがみ。手本。模範。
見分ける。照らし合わせる。

【言葉】印鑑、亀鑑、図鑑、年鑑、宝鑑、名鑑、門鑑、鑑査、鑑識、鑑賞、鑑定、鑑別など

 

中学生で習う「鑑」という漢字ですが、「鏡」という漢字と同意語にあたります。

厳密に言うと、「鑑」は「金属製の鏡」を表すときに用いられていた漢字です。

漢検では4級程度の簡単な漢字ではありますが、「鏡」とは異なった意味合いの言葉として日常でも頻繁に使われる常用漢字ですね。

 

 

「鑑みる」という言葉の意味

「鑑みる」という言葉の意味は辞書によって多少表現が違いますが、このような意味となっています。

先例や規範に照らし合わせる。

他を参考にして考える。

過去の例や手本などに照らし合わせて考えること。

 

「鑑みる」とは「鑑」という「鏡」を意味する言葉の動詞化したものだそうです。

「考慮する」という言葉と少し似たニュアンスになりますが、ちょっと違います。
というのも、「鑑みる」は「照らし合わせたりして考えた結果」という表現に近く、「考慮する」とは「考える」という表現に近いので意味は似ているものの使うシーンは異なります。

 

 

「鑑みる」の使い方

鑑みるという言葉の使い方の例

・先例に鑑みて対策を練った

・過去の失敗に鑑みて、配置を変更した

・時局に鑑みて決定した

・事態の進展に鑑みて、計画を変更しなければならない

 

その他にも、

人は流水に鑑みるなくして、止水に鑑みる

という孔子の言葉があります。
もちろん、孔子は中国人なので日本語訳したものですが。

これは四字熟語の「明鏡止水」という言葉のもとになっていて、「人は流れる水に自分を映すのではなく、止まった水で自分を映す」という意味があります。
(明鏡止水は「邪な気持ちがなく、澄みきって落ち着いた心」という意味。「虚心坦懐」と同義語)

 

これらのように通常は「~に鑑みる」という表現で「に」という助詞が付きます。

 

 

「~を鑑みる」は間違い?

ネットニュースなどを見ていると、「~を鑑みて、」というふうに「を」という助詞が現在は良く使われています。

新聞などでも普通に見かけるようになりました。

 

「鑑みる」とは日常会話ではあまり使いませんが、どうやらこの「鑑みる」という言葉と「考える」という言葉をごちゃ混ぜにして意味を理解している人が多いような気がします。

もしくは「顧みる(かえりみる)」と混合しているのでしょう。

 

良く見る例として以下のような文章があります。

これまで判例を鑑みて、このような対処が妥当だと思う

彼の性格を鑑みて、異論を述べることを控えた

前科四犯というその男の悪行を鑑みて、良識がないと判断した

 

この間違った使い方をしている「~を鑑みて」ですが、「~を考えた結果」もしくは「~を顧みて」という言葉に置き換えることができます。

つまり、「~を鑑みて」の「を」という間違えた使い方をしている人は、「鑑みる」という言葉と「考える」「顧みる」を同義語と理解しているように感じます。

 

前述の通り、鑑みるという言葉は、「~に照らし合わせた結果」という意味ですから、それらの言葉とは使い方が違います。

鏡のように照らし合わせるので、「を」ではなく「に」を用いるのが「鑑みる」を使うときに正しい使い方になるのです。

 

 

 

「~を鑑みる」を正しく使った例もある

平家物語の中にはこのような文章があります。

たとひ四部の書をかがみて、百療に長ずというとも

訳)たとえ中国の四つの医学書を照らし合わせて数多くの治療に優れていると言っても・・・

 

「かがみて」という部分は「鑑みて」という表現ですが、平家物語では「~を鑑みて」という使い方をしています。

 

他にも、太平記では「臣が忠義をかんがみて・・・」という文章もあります。

これは「私のこれまでの忠義を照らし合わせて考えてみた結果・・・」という意味ですが、ここでも「~を鑑みて」と使われています。

 

これらは、「~を鏡に照らし合わせるように考えてみた結果」という意味で「を」を使っているように感じますが、「~を鑑みる」という使い方が完璧な間違いじゃないということになりますね。

 

しかし、「~を鑑みる」というのは、古典文法での話ですので、現代の日本語で「を」を用いるのは違和感が残ります。

 

 

日本語の使い方というのは時代によって変化します。

新しい日本語も増えてくるこの時世に鑑みて、「~を」を使うのもいいかもしれません。

しかし、筆者のように細かなタイプの人は「~を鑑みる」という表現に違和感を感じるのも事実。
ネットでも「~に鑑みる」という表現が正しい使い方とされているし、「~を」は間違えた使い方と言われているので、「鑑みる」を使う場合は「に」を使いましょう。